漫画「葬送のフリーレン」に学ぶ生成AIの使い方

漫画をよく読むのですが、漫画の中の言葉や考え方が、仕事について考えるヒントになることがあります。
今回は「葬送のフリーレン」の世界から、生成AIの使い方のヒントを紹介します。

※ここでは漫画そのものの紹介は省略します。

https://frieren-anime.jp

https://websunday.net/work/708/

魔法はイメージの世界

「葬送のフリーレン」の中で、様々な人が口にするフレーズがあります。
それは

魔法というのはイメージの世界だ。イメージできないものは魔法で実現できない。

漫画の中ではゼーリエをはじめとする何人かの魔法使いが、同じセリフを口にします。
この言葉は、生成AIを使うときにもキーワードになるフレーズであると思いました。

生成AIに関する記事の中には、「AIは魔法ではない」という主張を目にすることもあります。これは、AIは何でも実現してくれる夢のツールではない、という意味でそのような主張がなされていると思います。
たしかに、AIは何でも叶えてくれる夢のツールではありません。
しかし、私は、この「魔法はイメージの世界」という考え方が、生成AIの使い方にもよく似ていると思っています。

フリーレンの世界では、魔法を使うには魔力と魔力をコントロールする力が必要です。
その上で、イメージできることは実現できるが、イメージできないものは実現できない。
それが、フリーレンの世界における魔法。

開発者にとっての生成AIは、このフリーレンの世界の魔法に似ています。
生成AIを使って開発を行うには、開発に関する基礎知識と、AIをコントロールするスキルが必要です。
さらに、成果物を解像度高くイメージできているものについては、AIを使うことでスピーディかつ高品質で作れる可能性が高いですが、成果物のイメージができていない場合は、使うAIがどんなに優秀であっても、自分が求める「良いもの」にたどり着くのは難しくなります。

AIを使ってWebサイトを作る

生成AIを使ってWebサイトを作るケースを考えます。
今のAIの性能であれば、「いい感じのWebサイトを作って!」くらいの指示で、本当にいい感じのWebサイトが作れることでしょう。ですが、そのような曖昧な指示では想定していた成果物になる可能性はおそらくかなり低いです。

「いい感じ」とは一体どんな感じなのでしょうか

  • かっこいい感じなのか、かわいい感じなのか
  • スマートな感じなのか、ポップな感じなのか、ダークな感じなのか
  • レイアウトは
  • 色は
  • サイトのコンセプトは何か。何を伝えるためのサイトなのか
  • ターゲットユーザーは誰なのか
  • PCで見ることを想定しているのか、スマホで見ることを想定しているのか

など、一口にWebサイトと言っても、作るときに考慮するべきことは数多くあります。
目に見えるもの(デザイン面)と、目に見えないもの(コンセプトやターゲットユーザーなど)も含めて細部まで解像度高くイメージを持てていれば、AIツールを使うことでかなり高速に作業することができるでしょう。

逆に、これらのイメージが曖昧になっている場合や、イメージをうまく言語化できない場合、AIが作った成果物も、曖昧さが残る中途半端な成果物になる可能性があります。

また、Webサイトをより多くのユーザーに届けるためには、レスポンシブの対応やアクセシビリティの対応も必要になります。直接HTMLやCSSをコーディングしてWebサイトを作成する場合には、コードの設計方針や実装方針などを決めておくことも重要になります。
成果物に対してイメージできる部分が多くなればなるほど、生成AIを使うことの恩恵は大きくなります。

問題は「AIへの指示が曖昧であること」ではありません。その前段階として、「自分自身が何を作りたいのか分かっていないこと」が問題なのだと思います。

学習ツールとしてのAI

では、成果物に対するイメージの解像度が低い場合、AIは使わない方が良いのでしょうか?
そんなことはありません。
AIがフリーレンの世界の魔法よりも便利な点は、学習ツールとしても使えるという点です。

AIを使うためにはイメージ力が必要です。
しかし面白いことに、そのイメージ力そのものをAIで補うこともできます。

成果物のイメージができていない場合、AIとの対話によって自分自身が学習しながらイメージを深めていくことができます。例えば、以下のようなことをAIに聞くことができます。

  • ○○(ターゲットユーザー)向けのWebサイトを作る際に気を付けるべきポイントを教えてください
  • ○○(コンセプト)なWebサイトを作る場合の、おすすめのレイアウトや配色を教えてください
  • スマートなイメージのWebサイトを作りたいです。デザイン案(レイアウトや配色など)を一緒に考えてください
  • アクセシビリティを考慮したWebサイトを作ります。HTMLの実装で気を付けるべきポイントを教えてください
  • レスポンシブ対応したWebサイトを作りたいです。どのような方法で実現するのが良いか、CSSの設計・実装案の候補を教えてください

などなど。
イメージの解像度が低い部分について、AIとの対話を繰り返すことで、見えていなかった部分の解像度を高くしていくことができるようになります。

生成AIは、成果物のイメージが明確である場合、作業を劇的に高速化する便利ツールになります。
イメージが明確でない場合は、イメージできる状態を作るための学習ツールとして便利です。

イメージするためにも、基礎は必要

生成AIは学習ツールとしてもとても便利で、イメージ力を強化するためにも使えるツールとなります。
しかし、だからと言ってAIを使う側に知識が全く不要というわけではありません。

フリーレンの世界でも、「何をイメージするか」だけですべての魔法が使えるわけではありません。魔法についての知識や技術があって初めて、イメージを魔法として形にできます。
AIも同じで、イメージさえあれば十分というわけではありません。

レスポンシブやアクセシビリティを考慮したWebサイトを作りたい場合、そもそも「レスポンシブデザイン」や「アクセシビリティ」という用語を知っていなければ、対話しながら深掘りすることもできません。
内部のHTMLやCSSの設計・実装方針を深掘りしようと思うと、HTMLやCSSの基本的な知識は持っていなければ話になりません。
AIが提案してきたデザインの良し悪しを判断するには、人間側にデザインの知識が必要になります。

魔法使いは、その人が持つ魔力以上の魔法を使うことはできません。
一方、生成AIは自分では作れないものまで作ってくれます。しかし、その成果物が本当に良いものなのかを判断し、目的に合わせて方向修正し、最終的な品質を高めていくためには、使う側にも相応の知識や経験が必要です。
基礎知識を増やすことは、単にAIの出力を評価できるようになるだけではありません。自分が「何を作れるのか」「何を作りたいのか」をイメージできる範囲そのものを広げることにもつながります。

イメージできても説明できないこと

「葬送のフリーレン」にユーベルという魔法使いがいます。ユーベルは、理屈よりも自分自身の感覚やイメージを強く信じて魔法を使う、少し変わった魔法使いです。「魔法を使うイメージができること」と「その理由を論理的に説明できること」は別のようです。

実際、開発者が仕事をするときにも、詳細な言語化ができない直感は多々あります。
例えば、「このデザインはなぜか違和感を感じる」「このコードの書き方はなんとなく好きじゃない」「このコードはなんとなく危ない気がする(嫌なに匂いを感じる)」といった感覚です。経験を積めば積むほど、この感覚は増えていきます。

魔法はイメージさえあれば使うことができますが、生成AIの場合、イメージができていても言語化することができなければ、AIに詳細を伝えることができません。ただ、生成AIはそのような言語化されていない感覚を整理するためにも使えます。

まとめると以下のようになります。

  • 明確なイメージがある → AIに作らせる
  • イメージがない → AIと一緒に作る
  • イメージはあるが言葉にできない → AIに言語化を手伝わせる

生成AIをうまく使うために大切なのは、最初から完璧な指示を出せることではないのだと思います。
自分の中にどこまでイメージがあるのかを知り、足りない部分はAIと一緒に考え、言葉になっていない部分はAIとの対話で言語化していく。

そうやって少しずつイメージの解像度を高めていくことが、生成AIという「魔法」をうまく使うコツなのかもしれません。